いただきます夫婦の世界一周レポート

私たちは2013年10月16日より、「オーガニック」「自然と調和した暮らし方」をテーマに夫婦で世界一周の旅を始めました。 旅の途中で見つけたもの、感じたことなど自由にアップしていきます。 また、いただきますを世界に広める夫婦として、「いただきますの日」プロジェクトにも参加しています。 http://itadakimasu1111.jp/?p=1795

海外で暮らす日本人をたずねてVol.2 宇佐美篤さん@ジョホールバル【1/2】

 ジョホールバル(Johor Bahru)は、マレーシア最南端の都市で、海沿いを歩けば、すぐそこにシンガポールが見える。首都クアラルンプールから、飛行機で1時間弱、マレー鉄道を使うならおよそ4時間半の長旅である。この都市に住む日本人は1000人に満たないという。今回、その内の1人である宇佐美篤さんに、私たちはお会いすることができた。

 宇佐美さんは10数年前からマレーシアの地で完全無農薬の農業を行っておられる。元ホテルマンという異色の経歴をお持ちの宇佐美さんに、ご自身の農法からホテルマンをやめマレーシアで農業を始めた経緯、そして日本に対する思いまで、お話を伺った。

 取材は長時間に渡ったため、農場見学編とインタビュー編の2部構成でその模様をお届けする。

 

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宇佐美篤(うさみあつし)さん

1972年生まれ。ABMグリーンヒル代表取締役

東京渋谷にて5年間ホテルマンとして働いた後、日本を離れる。

現在、マレーシア・ジョホールバルにて有機農業を行っている。

http://noaggmf.sakura.ne.jp/abm/about.html

 

第一部・農場見学「野菜にもハングリー精神を」

 

 2013年4月より、宇佐美さんはこの地で農業を行っている。それまで利用していた借地は、開発事業の影響を受け、3年で明け渡すことになった。現在の場所には、長く居られそうだという。

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 宇佐美さんの農場は緩やかな斜面上にある。その広さは、未開の部分も含めると、3エーカーに及ぶそうだ(インターネットで調べたところ、1エーカーは畳2448枚分らしい。ますますよくわからなくなってしまった)。私たちが伺ったのは、休日だったため、2名いる従業員の方も、ゆったりとされていた。

 広い農場内をひとつひとつ丁寧に回りながら、宇佐美さんはご自身の農法について、教えてくださった。

 宇佐美さんの農場がある場所は、お世辞にも野菜作りに適した場所とは言えないという。

 

f:id:kimura_fu-fu:20131020133622j:plain ““このあたりの草は、トラクターでどうこうできる草じゃないんですよ。笹系の草が多いんですが、これらは根から枝分かれして、絨毯のように絡み合って育つんです。一番簡単な対処法は、農薬を使って枯らして、焼き畑にすることですけど、僕らはそれをしないので、全部手作業でやっていきます。引っこ抜いてこそいでを繰り返す。こそぐ際も、注意が必要で、あまり深くやると赤い地肌が出てしまいます。これが出てしまうと、もうものの作れる土じゃない。この辺は表土が5センチくらいしかないので、加減の難しい作業です。””

 

  なぜ、野菜作りに向いていない土地を宇佐美さんは選んだのか。聞いてみた。

 

““その質問はよく受けますね。「こんなところで何が作れるの?」と。しかもこの環境で無農薬というとなおさら驚かれます。ですが、他の人でもできることをやったって、それは「当たり前のこと」にしかならないじゃないですか。誰もが「これは厳しいでしょう」と思うことをあえてやる。そうすることではじめて自分という人間に固有の価値が生まれるんじゃないかと僕は考えます。””

 

  その言葉通りに、宇佐美さんの農法は「一般的」なものではない。例えば、ビニールハウス内に目を向ければ至るところに雑草が生えている。これは普通、あり得ないとされていることだ。 

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 ““ご覧の通り、ぼくのハウスは草まみれです。長年の経験で、ハウス内を綺麗にしすぎても駄目、というのが僕の持論なんです。僕は、間引きの段階で草抜きをしたら、もうその後は抜きません。神経質になって草を抜きすぎると、反ってひどい野菜ができるんです。むしろ草があった方が、野菜はよく育つ。この方法で、収穫時期にはそれなりの量が穫れるんですよ。””

 

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 ““僕は、野菜が本来持っている力をちゃんと引き出してやることが大切だと思っています。これも僕の持論ですが、可愛がって育てすぎると野菜もなまけてしまうんですよ。だから、あえて雑草のような競争相手を作ってやるんです。例えば、僕の育てるナスは、成長過程で一度駄目になります。周りの雑草に栄養を持っていかれることが原因です。でも、駄目になったところで、少し周りの草を抜き堆肥を与えてやると、また息を吹き返す。それどころかぐんぐん栄養を吸収して、以前よりも引き締まった立派なナスになる。僕は野菜にも反骨精神のようなものがあると思っています。「いかにして野菜にハングリー精神を与えるか」がこっちで農業をはじめてからの僕のテーマでしたね。””

 

 日本の農業と比較して大きく異なる点も宇佐美さんは教えてくれた。 

 

““種の蒔き方が、日本とは違います。こっちの種は安い代わりに、発芽率が悪い(50%にも満たない)ので、買ったら全てふりかけ式に蒔いてしまうんです。日本だとトレーにひとつずつ入れ発芽させてから定植したりしますけどそんなことはしない。とりあえず蒔いちゃう。その後は、もちろん発芽具合を見て、移植することもありますけど、基本は自然に任せます。””

 

 有機農業をやっている方達は、総じて宇佐美さんのようなやり方をしているのだろうか。尋ねてみた。

 

““いや、皆同じ方法でやっているわけではありません。もっと農場内を綺麗にしている農家さんはたくさんいます。マルチでやっている人も多いです。そのような方々と比べると、僕は自然農法に近いスタイルだと思います。つくづく一般的な方法ではやってないと思いますね。 ””

 

  宇佐美さんの声は厚みのある低音で、語り口は終始穏やかだった。にも関わらず、彼の言葉には聞き手を高揚させるものがある。この熱量は一体どこからくるのだろうか。第2部に続く。

 

 

written by Shunsuke