日本人が経営するオーガニックショップDistel(ディステル)へ行ってきた!in Germany
ドイツ・フランクフルト中央駅から地下鉄で数駅、もしくは徒歩20分くらいのところに日本人の方が経営するオーガニックショップがある。「Distel(ディステル)」と名付けられたそのお店は、フランクフルト市内で最も古い歴史を持つオーガニックショップだ。店名のDistelは「安心・満足・独立」などの花言葉を持つ「あざみ」という花のことらしい。
僕たちがお店にお邪魔したのは月曜のお昼頃。その日は気持ちのよい晴天だったので、先の中央駅から、お店まで歩いた。数日前まで滞在していたフランスやベルギーと比べ、ドイツは日差しが強く感じられた。歩いていると、側をトラムが走ったり、ちょっとした公園が行く先に見えたりした。中央駅のまわりは割と殺伐としていたのだが(夜の外出、特に女性ひとりでの外出は避けた方が無難と聞いた)、少し歩くだけで、随分と印象が変わるなと思った。ホームページにあった地図を何度か確認しながら進んだ。シンプルな道順を辿っていくと、ほどなくお店が見つかった。
お店に入ると「いらっしゃいませ」と声が聞こえた。久しぶりの日本語に、なんだか嬉しくなった。「こんにちは」と挨拶し、まずは店内をひと巡り。
ずらりと並んだオーガニックワイン。
野菜や果物。奥のスペースには、オーガニックコスメも。
湯飲みなど「日本を感じる」商品も多く揃っていることに目がとまる。
店内を見ていると、日本人女性の店員さんが「ご旅行ですか? 」と声をかけてくれた。「そうです」とこたえた後「オーガニック」をテーマに僕たちが旅をしていることを伝えた。「おもしろそうですね」とその人は微笑んでくれて、店長さんに僕たちのことを紹介してくれた。
言うまでもなく、店長さんとは、冒頭で書いた「オーガニックショップを経営する日本人」その人だ。お名前は片倉 直彦(かたくら なおひこ)さん。
突然の訪問にも関わらず、ショップのこと、そして片倉さんご自身のことについてお話を聞かせていただくことができた。以下、インタビュー形式でその時の様子をふりかえってみたいと思う。
ーーDistelはかなり歴史のあるショップだと聞いていますが、ずっと片倉さんが経営されているのでしょうか
いえ、ぼくは4代目なんです。もともとドイツ人の方が経営していたものを、僕が引き継いだ形です。だから、ショップ名も僕がつけたわけではないんですよ。この店は、フランクフルト市内はもとよりドイツ国内でも、おそらく唯一の日本人経営のオーガニックショップだと思います。
ーー片倉さんが店長になる前と後で、お店にどのような変化があったと思われますか
僕が店長をやる以前、この店は、かなりヒッピー色の強い店だったんですよ。ヒッピー志向の常連客たちが来ては語り合う「場」のような感じだった。近くにゲーテ大学がある関係で、この辺りは学生が多いんです。この店は、フランクフルト市内で最古の歴史を持つオーガニックショップなんですが、開店したのはちょうどヒッピームーブメントが起きていた頃です。そうした若者達のニーズに応える場でもあったのでしょう。いまでこそ「オーガニック」はメジャーなものですが、開店当時はそんなことを言っている人はほとんどいなかったはずです。そう考えると、初代オーナーは並々ならぬ思いをもって、店をはじめたんだろうと思います。
ーー取り扱っている商品も今とは違ったのでしょうか
随分と違いましたね。以前は、まず品数がとても少なかったんです。しかもあるのはアクセサリーとかコアな人向けのものが多かった。僕は引き継ぐ際に、もっと気軽に人々が来られる店にしたいなあと思ったんです。例えば、あそこにあるコスメ類も、以前はほとんど取り扱っていなかったものですよ。あとは「日本人店長」ならではの商品も多く取り揃えようと思いました。なので以前と比べると、お店に来るお客さんの層も変化したなあという感じがあります。
ーードイツの「オーガニック」事情についてどう思われていますか
ドイツは「オーガニック先進国」と言われていますよね。生活している身からしても、近所のスーパーで気軽にBio(※)商品を買えるのは、やっぱりすごいことだと思います。ただ「先進国」ゆえの問題もある。例えば、大手のスーパーがBioの果物や野菜を大量に購入し、それを安く売ると、消費者の手には届きやすいですが、生産者には大きな負担になります。ドイツ国内で、負担に耐えかねた生産者が反発運動を起こした事例も過去にはあるんです。実際、昨年度のドイツ国内における有機農地の作付け面積は減少しています。「有機ではやっていけない」と辞めてしまう農家がいるということです。この問題を受け、大手スーパーは隣国からBio製品を購入し量を確保しているようですが、これにも問題がある。それは空輸する際に出る大量の排気ガスです。こうなってくると、結局Bioってなんだっけ? ということになりますよね。これは難しい問題ですけど、僕はドイツ人なら解決できるんじゃないかとも思っているんです。なぜなら、ドイツ人は徹底的に考える人たちなんですよ。根本の部分まで深く考える。日々ドイツ人と交流し、痛感することです。例えば東日本大震災以降、日本製品について、日本人以上にドイツ人は考えているなと感じることが多々ありました。特にチェルノブイリを経験した世代は、すごかった。だから、彼らなら、オーガニックの問題に対しても良い解決策を見つけられるような気がするんですよね。
※Bio…有機農産物や有機加工食品を表す言葉。主にヨーロッパで使われている。
ーー片倉さんはもともとBioに興味があったのでしょうか
もともと妻がBioに興味を持っていたんです。それに僕も影響を受けていたんだと思います。でもドイツへ来た当初から「オーガニック」に関することをしたいと思っていたわけではなかった。ドイツならではのことをやりたいなという意識は持っていて、それに「オーガニック」が合致したんだと思います。ドイツへ来てからしばらくは全然違う会社でアルバイトのようなことをしていたんですけど、ある時この店が4代目を募集していることを知りました。
ーー求人を知ってすぐに応募されたのでしょうか
いえ、しばらくは悩みましたね。悩んでいる時に、先の震災が起きました。僕の実家は仙台なんです。あの時は両親と2週間ほど連絡がとれなくなりました。幸い両親は無事でしたが、後にその当時の状況を聞かされ、改めて食の大切さを痛感したんです。お店をやろうと決意した大きなきっかけはそれでしたね。あとは食に関わる仕事をしていれば、もし両親が仙台からこちらへ避難してきたとしても、美味しいものを提供できるだろう、という思いもありました。
片倉さんは、とても穏やかな口調でそう語ってくれた。時折、僕たちの旅についても質問をしてくれた。店内の良い雰囲気の中で、良いお話を聞けたことが嬉しかった。話が一段落したところで「お茶でもどうですか? 」と片倉さんが薦めてくれた。せっかくなので、お店のパンを購入し、お茶と一緒に頂くことにした。
「ドイツを感じられるパンをお願いします」と言って出してもらったパン。くるみの食感を楽しみながら、あっという間に完食した。贅沢な昼ご飯。
ご飯を食べながら、そばでデスクワークをしていた男性のスタッフさん(こちらも日本の方)とお話をした。聞くと、年上のドイツ人女性と学生時代に結婚をして、ドイツへやってきたのだそうだ。どこかで聞いたことのあるような身の上に、とても親近感を持った。
ちょっと覗くつもりで訪れたのに、気がついたらすっかり長居してしまった。とても居心地が良かったからだ。最後に桃やパン、奥さんのコスメや友人へのお土産を買った。
写真は、帰り際にショップのみなさんと撮ったもの。左から店長の片倉さん、スタッフの純さん、しんちゃん。
これは奥さんがセルフタイマーを調節している時に間違って撮られた写真。でもスタッフみなさんの自然な笑顔がばっちり撮れていた。写真からでも十分に伝わると思うが、スタッフさんは、みなさんとてもチャーミングで面白いです。
そして最後は、なぜか鼻の下をのばしておしまい。楽しいひとときをありがとうございました!
帰りの足取りは、行きよりずっと軽かった。外の晴天も、行きよりずっと心地よかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
Distel(ディステル)
住所:Homburger Str.17 60486 Frankfurt
営業時間:月~金 11:00~19:30/土 10:00~17:00
定休日:日曜日および祝祭日
HP:http://www.distel-bioladen.com/
Distelで取り扱っている商品は上記ホームページからも購入可能です!
written by Shunsuke